ココナッツクラッシュ

たまにのことなので帰国中はできるだけ友達に会いに行くようにしている。先週末もそうだった。

友達の家に行くのにぷーやんに自転車を借りたのだけど、ピストとかいう非常に乗りにくい代物だった。普通に乗っている分にはクルーズ感というか、乗り心地のよい操縦感を提供してくれるのだけど、ペダルを逆に回転させるとブレーキがかかるので足の動きを止めることができない。

「ふっ」とちからを抜いたその瞬間にまずペダルに乗せた足が浮き、膝が浮き、腰が浮く。ヤバイと思ってブレーキをかけようとハンドルを握るがブレーキは殆ど効かない。そのまま全身が前方に投げ出されて転んだ。着地の瞬間スローモーションになったと錯覚するんだけど、上着がじわりとこすれる感触に「新しいの買わないとダメかー」と考えてしまうくらいで、その余りにも久しく体験していない転ぶイベントをどのように受け止めるべきか悩ましいくらいだった。

なんでこんな事を書こうと思ったのかというと、6日が経過しようとしている今も着地した側である左わき腹が余裕で痛いし、もう数日で出国するのでなんとか直ってもらわないとという思いがあるからで、例えば帰りの空港で彼女が出迎えてハグでもされたら多分声にならない叫びがあがるし、予め「左わき腹が痛いからハグはしないように、もしくはしてもソフトに」などと提案すれば多分何かやましいことがあってそういう事を言うんじゃないかと疑われる。よってハグされる方の可能性を考慮しなければならない。

転んだ話しに戻そう。

着地の瞬間から数十秒間は呼吸が出来なかった。脇腹を思い切り蹴られたかのような衝撃。アスファルト先輩の蹴りマジ重い。しかし昼日中の住宅街なのであんまり長い間寝っ転がっているわけにはいかないと、力を振り絞って立ち上がると背面から何かが垂れている感じ。「自転車に水でも貯まってたかな、もしくは出血…」と思ったのだけれどよく見るとヒップバッグから垂れている。そうだ、思い出した。土産にとココナツでできたワインをヒップバッグに入れていたのだ。

ヒップバッグの中身を見ると瓶は粉々でワインがたまっている。暗澹たる気持ちで自転車を押し歩いた。友達にはヒップバッグの匂いを嗅がせた。